私の読書の履歴書31 30代1

30代は私にとって転換期だった。
って、ここで私の人生を語ったところで興味はないだろうから話さないけどね。

作家への夢を追えなくなったことと、読書すらできなくなったこと。
それが、いま振り返れば5年ほどあったことだけは書いておく。
だから、30代の履歴書は今までよりも短い。

とはいえ、10代20代のときもそうだけど、このブログに書いた本以外の本も読んでたんだよ。その中のいくつかを話しているんだ。

このブログを書き始めた頃になって、やっとあの頃の経験も今の血肉になってるんだなぁって思えるようになった。キツかったよ、ほんと。いろいろがね。
ま、生きてればそれだけでいろいろ起きる。
それでも私はこうして生きてるし、寿命が来るまで生きる。

というわけで、本題に入ろう。

Contents

●屍鬼

30代に入って、20代後半のときよりも、自分にとっておもしろい本に出会える時が増えたんだよね。単行本の分厚さと値段でビビってた『屍鬼』が文庫化されたので、読み始めた。

話を要約するだけでえらい文字数が必要だから、ほんとの大枠だけ。
外場村という人口1300人の村が舞台。
ある日、3人の死体が見つかるけど、村の人の判断で、事件性はないものとされる。でも、その後も死体が見つかっていくことで、この村で何かが起きていると気づく人々。
いったいこの村で何が起きているのか。

大枠っていうか、導入の要約の要約だね、これじゃあ。
まあタイトルの屍鬼って言葉から推測できると思うし、これが大事なわけじゃないから言っちゃうけど、吸血鬼とゾンビを足して2で割ったような存在が村に広まっていって、それに対抗する人と屍鬼とのたたかいなんだよ。
なんだけど、屍鬼には人間だった時の意識があるんだよね。それと思い出しきれないぼんやりとした記憶が。
中には、記憶をしっかりと保ったままの屍鬼もいれば、人狼化したハイスペックな屍鬼がいたりするんだ。

ただ、この屍鬼のパートがなんとも切ないしやるせない。
人間パートも、どうにもくるおしい。

それでも人間にとって屍鬼は脅威であり、屍鬼に襲われることで人間ではなくなってしまう存在だ。
ホラー小説では昔っからよく言われるけど「本当に怖いのは人間だ」って思わなくもないんだよね。

この本がこんなに長くて重厚で、それでありながらおもしろくて、できることなら数日間の休暇もらって最後まで一気読みしてみたいって思うのは、主要登場人物だけじゃなくて、主要登場人物の家族や友人知人、恋人のこともしっかりと書き込んでいるからなんだ。
一人一人の話が、せつなかったり、くるおしかったり、やるせなかったり、そうするしかないよなぁって思ったり、まあ、色々なんだよ。

ライトノベルが良くないとは言わない。
言わないけど、こういう長い本を読んでみるのもいいものだよ。

 

 

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●白夜行

大阪で起きた質屋殺し。何人もの容疑者が捜査線上に浮かぶが、決定的な証拠がないまま事件は迷宮入りに。被害者の息子・桐原亮司と容疑者の娘・西本雪穂は、その後別々の人生を歩んでいくかに見えた。だが、二人の周囲には不可解な凶悪犯罪が次々と起きる。人の心を失ったゆえの悲劇を、叙事詩的スケールで描いている。

大阪で起きた質屋殺し。容疑者が複数、捜査線上に浮かぶ中、西本雪歩の母親も容疑者の一人としてピックアップされる。しかし、西本雪歩の母はその後事故で死亡。事件は迷宮入りする。
西本雪歩はその後、唐沢家の養女となり唐沢雪歩と名乗る。
生まれ持った美女で成績も良かったため、まわりから妬まれることが多かったが、雪歩に絡む人たちはいずれも不幸にあっている。

一方被害者の息子、桐原亮司は学生時代には主婦売春の斡旋やゲームソフトの偽造などをして、日の当たらない人生を歩んでいた。年代物のハサミを愛用し、切り絵を作るのが得意。

登場人物の心情をなるべく出さず、状況描写、登場人物の証言、出来事で物語は進むんだけど、伏線の張り方がいいんだよね。あの時のあれはこうだったんだってのが、ストーリーの邪魔をしていないっていうか、それすらもちゃんと流れの中に入ってる。
プロだから当たり前だと思うかもしれないけど、プロでも伏線の回収が「あれ?」って思う人、けっこういるからね。

長い話なのに立て続けに読み返した本だった。
ラストがねぇ、私は好きなんだよね、こういうラスト。
なんかこう、あれなんだよ。言えないから言わないけど、もうほんとあれなんだよ。
好きだなぁ。

 

 

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●続巷説百物語

『巷説百物語』の続編なんだけど、収録されている各短編(中編?)は、『巷説百物語』で語られた物語の前後に起きているものだから、そこは注意して読もう。っていうか2冊続けて読めば「あぁ、これは巷説のあの話の前か」とかってわかるよ。

っていう読み方がひとつ。
もうひとつはこの『続巷説百物語』単体で読む読み方。
各短編に伏線が張られていて、それぞれが「死神 或いは七人岬」に収束して「老人火」で結末という形。

江戸を舞台に、裏稼業を営んでいる者が依頼を受けて解決するんだけど、仕事人とは違うんだよ。
百鬼夜行シリーズ同様、妖怪を使うんだけど、その使い方も百鬼夜行シリーズとは違うんだよね。
百鬼夜行シリーズと巷説百物語シリーズ、どっちが好きかっていったら、巷説百物語シリーズかな。

巷説シリーズでは私はこの『続巷説百物語』が一番好きなんだよね。
これも白夜行とは違う意味でラストがねぇ、いやぁ、ラストがさぁ。
なんとも言えないんだよねぇ。

で、巷説百物語シリーズ。
『巷説百物語』『続巷説百物語』で本編は終わりなんだよ。『後巷説百物語』は後日談で『前巷説百物語』は、巷説百物語シリーズの主要登場人物が組む前や組むきっかけになった話。『西巷説百物語』は外伝。『嗤う伊右衛門』も外伝っちゃあ外伝。

百鬼夜行シリーズの新刊もずいぶんと出てないし。巷説百物語シリーズはもうやらないのかな。読みたいな、又一たちの物語。

 

 

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というわけで、今回はここまで。

いろいろあった30代の私を、再び本来の私に戻したのは本だったんだ。
あれこれが落ち着いて、収まって、今は自らの力で動こうと思ってるんだけど、ここまでくるのに必要なのは本だった。

そして、本以外で必要だったもので、これからも絶対に必要なのが、人と直接会って話すこと。
その時は、スマホは電源切るくらいの気持ちで。切らなくていいけど、切るくらいの気持ちで。
笑ったり、考えたり、懐かしんだり、前へ進む気持ちをもらったり、時には悲しかったり辛かったりもあるけど、別れ際にはまた近い内に会う約束と笑顔。
そういう友人がいることって、本当に幸せなことだよ。
そういう恋人や配偶者がいるなら奇跡だよ。

客観的世界に、客観的現実に流されないように、押しつぶされないように生きていく術を持ちたいものだよ。
いや、それって気づいていないだけで、持ってるものだから。

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