私の読書の履歴書30 20代後半5

20代後半にも、いやずっと古典も文学も読んできたはずなのに、いざ感想を書こうとすると思い出せないものが多いということは、思い出せるほどのものを読んでなかったか、私が本気で読んでなかった、もしくは私の読みが浅かったってことなんだろうな。

この頃読んだもので強烈に記憶に残っているのが、中学生の時にショート・ショートしか読んでなかった筒井康隆さんの本を数冊読んだことなんだ。
筒井康隆さんの作品は、最後にドタバタがあって終幕っていう形が多いという思い込みがあったんだけど、そうじゃないものに連続で出会ったんだよね。

まずはこれから。

Contents

●旅のラゴス

高度な文明を持っていた黄色い星を脱出した1000人の移住者が「この地」に着いた。人々は機械を直す術を持たず、文明はわずか数年で原始に逆戻りしたが、その代償として超自然的能力を獲得した。それから2200年余り経った時代、ラゴスは一生をかけて「この地」を旅する。
北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か? 異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。

高度な文明を持っていた星を脱出した1000人の移住者が「この地」に辿り着いたんだけど、人々は機械を直せなかったんだよ。それでどんどん機械は壊れていって、文明は原始に戻ってしまうんだ。
そして文明を失った代償として、人々は超能力を獲得するんだよ。予知や読心、飛行や空間転移まで獲得した人もいて、壁抜けをできる人もいた。
「この地」に人々が辿り着いてから2200年余り過ぎた頃、主人公ラゴスが「この世界」の旅に出るんだけど、その旅は生涯をかけたものになるんだ。

集団転移や壁抜けを体験したり、奴隷に二度も身を落とされたり、15年も本ばかり読んでたりする。やっと自分の故郷へ戻ったとき、そこであるものを見つけて、ラゴスは最後の旅に出るんだ。

この本、同じ段落なのに、数年過ぎていることがあるんだよ。一人称が急に変わるところがあったりするんだ。
それと、小説内の現実と異空間が混ぜこぜになっていたり、時間軸も一方方向じゃない。
本としては薄いほうなんだけど、さらっと読んでたらあっという間に内容がわからなくなるし、読んでるこっちが迷子になる。
今読んでるのはラゴスと「この世界」のどこの場面なのか、いつの時代なのかってのを意識して読まないとね。
って言っちゃうとめんどくさいって思うかもしれないけど、これがまたストーリーがおもしろいんだよ。

いつだったか、なんかのきっかけで急に売れだしたらしいんだけど、そのきっかけはともかく、おもしろい本だよ。

 

 

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●夢の木坂分岐点

刊行順でいったらこっちが先なんだけど、私が読んだのは『旅のラゴス』の次だった。

夢の木坂駅。
ここで乗り換えてどちらの方角へ向かうか、乗り換えずに進むか、降りるかで一人の人間のあったかもしれない人生が見える。

夢と虚構と現実の境目がない文章は、読んでると、ほんとに誰かの夢をそのまま見ているような錯覚を起こすんだよ。
夢って、不連続な出来事だったり、急な場面転換だったりしても、見ているときは連続しているというか、繋がっているよね。
どこかの建物の中を歩いていて、ドアを開けて山の中を歩いて、目を開けたまま崖から落ちて、やばいって思いながら地面に着いたらどこか田舎の道で転んでて、立ち上がったら遠くに未来の都市が見えていて、田んぼのあぜ道を進んで都市へ辿り着いて中に入ったら遺跡の暗い通路でって感じで。

私の例えがいいとかよくないとかは別にして、こういう夢の感じをまるごと一冊の作品にしたのが、この『夢の木坂分岐点』なんだよ。
この作品を書く前、書いているとき、筒井さんは自分が見た夢を夢日記に書いていたってのを何かで読んだことあるんだよね。
主人公は一人なのに、名前が微妙に違ってたり、ちょっと似てたりして、本人のその時の状況もちょっとした誤差がある。しかも、夢の話だけじゃなくて、作品中の現実と夢と虚構が、句読点や行がえ、一文の中でさらっと転換していたりする。
加えて、一段落が長いから、文字数も多い。作品の情報量が多いんだよ。
薄い本だと思って読んでも、なかなか進まない。
でも次々に場面転換してるから、そのまま読み進めちゃうんだ。

この本も『旅のラゴス』同様、今時分が読んでいるのは誰の、どういう物語なのか意識して読まないと、飲み込まれるか置いてきぼりにされるよ。

読みやすい文章、読みやすい物語、わかりやすい言葉の小説に慣れているなら、たまにはこういうものを読んで、不思議な感覚を味わってみるのもいいんじゃないかな。

 

 

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●驚愕の荒野

これ、ネットで検索しても古本でしか購入できないんだよね。
なぜか文庫本が高い。
でも、私がおすすめするのは単行本の方。

薄くて、文章のほとんどが、本の下半分にしかないんだよ。しかも話の途中から始まってるんだ。
何度死んで、何度転生しても、魔界によみがえってしまう運命を書いているんだけど、それは本の世界の中の本の話。筒井さんお得意のメタ小説。

こういう言い方ならわからないだろうから言うけど、最後はすべてがなくなるんだ。
これはもう、読んだ人にしかわからない。

あの読み終わった時の感覚。
何度も読み返したなぁ。そして、数年するとふと思い出して、また読みたくなるんだよね、この本。
本屋に行って見てないからわからないけど、ネットでは古本じゃなきゃ買えないってのが残念。
ちなみにこの本、めずらしく同じ古本でもAmazonより楽天ブックスの方が高い。
送料込みだと同じくらいになるところもあるけど、基本Amazonの方が安く買える(2018/10/11現在)。

というわけで、今回はここまで。

『驚愕の曠野』は河出書房さんも新潮文庫さんも重版かけてくれないかな。時代も世代も関係なくおもしろいのに。

次回からは30代に読んだ本。
なんだけど、30代は私にとって、読書に限って言えば空白の10年に近い。
ま、いろいろあったんだよ。
じゃあ、また次回。