千の顔をもつ英雄 1- ジョーゼフ・キャンベル

2018年4月28日

Contents

■スターウォーズはこの本が原点。

 神話の構造を解き明かし、なぜ人はかつて神話を必要としたのか、また、現代に生きる私たちが神話を必要とするのはどんなときかなど、複数の視点で読むことができる本。

 創作だけではなく、かつて神話が生きていた時代の人々がそうしていたように、人生、生き方にも、この神話の構造を取り入れることで、自己の成長、どう生きるかといった生き方にも参考、応用することができる。

 「スター・ウォーズ」シリーズはこの本が原点となっていると言われているが、ジョージ・ルーカスはこの本を先に読んだのではなく、構想していたスター・ウォーズシリーズをこの本を読むことで、構想を深め、組み換えた結果、世界的に成功し、今でも多くの人に愛される作品になっている。
 また、この神話の構造は、ハリウッド映画のほとんどに使われているし、日本でも多くの映画・小説・アニメなどに取り入れられている。

 日本文学では、神話的な世界で構築されたという評価を受けた作家や作品があるが、これらも本書で解き明かされている神話の構造、また、ロシア人ウラジミール・プロップの著作『昔話の形態学』(水声社)にある構造、形式、キャラクター設定・配置をもとにして作られた作品もある。

 創作の参考にするなら、本書を読んだあとに『神話の力』(著/ジョーゼフ・キャンベル&ビル・モイヤーズ ハヤカワノンフィクション文庫)や、『物語の法則』(ASCII)『神話の法則』(ストーリーアーツ&サイエンス研究所)(共にクリストファー・ボグラ-著)を読むのも参考になる。ただし『神話の法則』はショッピングサイトでは、定価以上で販売しているので「ストーリーアーツ&サイエンス研究所」と検索して、サイトから定価で購入することをおすすめする。
 大塚英志『キャラクターメーカー』『ストーリーメーカー』『キャラクター小説の作り方』も小説を創作する際には参考になる。ただし、どちらかと言えばエンタメ系の小説執筆の参考になり、文学への参考には、これらを読んだ後の応用力が必要。っていうか、エンタメ系と文学は、そもそも文法が違う。

 では、目次の紹介の後、本書について私の感想も含め、もう少しだけ突っ込んで話していこう。

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■目次

千の顔を持つ英雄 上

一九四九年版序文
プロローグ モノミス-神話の原形
 1 神話と夢
 2 悲劇と喜劇
 3 英雄と神
 4 世界のへそ
第一部 英雄の旅
 第一章 出立
  1 冒険への召命
  2 召命拒否
  3 自然を超越した力の助け
  4 最初の境界を超える
  5 クジラの腹の中
 第二章 イニシエーション
  1 試練の道
  2 女神との遭遇
  3 誘惑する女
  4 父親との一体化
  5 神格化
  6 究極の恵み
謝辞
原注
図版リスト

千の顔を持つ英雄 下

第一部 英雄の旅(承前)
 第三章 帰還
  1 帰還の拒絶
  2 魔術による逃走
  3 外からの救出
  4 帰還の境界越え
  5 二つの世界の導師
  6 生きる自由
 第四章 鍵

第二部 宇宙創成の円環
 第一章 流出
  1 心理学から形而上学へ
  2 普遍の円環
  3 虚空から-空間
  4 空間の内部で-生命
  5 一つから多数へ
  6 世界想像の民話
 第二章 処女出産
  1 母なる宇宙
  2 運命の母胎
  3 救世主を孕む子宮
  4 処女母の民話
 第三章 英雄の変貌
  1 原初の英雄と人間
  2 人間英雄の幼児期
  3 戦士としての英雄
  4 恋人としての英雄
  5 皇帝や専制君主としての英雄
  6 世界を救うものとしての英雄
  7 聖者としての英雄
  8 英雄の離別
 第四章 消滅
  1 小宇宙の終末
  2 大宇宙の終末

エピローグ
 1 姿を変えるもの
 2 神話、カルト、瞑想の機能
 3 現代の英雄
謝辞
解説
原注
図版リスト
参考文献

■読後、ハリウッド映画を見ながら解析してみる

 「スター・ウォーズ」シリーズが前面に出ているが、本書の影響は多くの映画、小説、アニメに及ぶ。
 また、ノンフィクションでも、この神話の構造に沿って人生が進み、苦難や苦境を乗り越えたり、成功を手にしている人が多い。

 ハリウッド映画に限っていえば「スター・ウォーズ」シリーズ以外では、「マトリックス」「マッドマックス」「ダ・ヴィンチ・コード」など、多くのヒーロー物語に影響が及んでいる。
 これまで大塚英志さんの著作以外では、日本の書評であまり見かけなかったが、大江健三郎さん、中上健次さん、村上春樹さんの著作の多くも、神話の構造を用いているのではないだろうか。ただし、三者ともジョーゼフ・キャンベルだけではなく、前述のウラジミール・プロップからの影響や著作を参考にしたかもしれない。
 ウラジミール・プロップ『昔話の形態学』は、これまた現在入手困難だ。知る人ぞ知る本ではなく、多くの人が読むべき本であり、ジョーゼフ・キャンベルだけではなく、ウラジミール・プロップも、もっと光を当ててほしいという個人的希望もあり、どこか大手出版社が新訳かつ全訳で出版してくれないだろうか。

 さて、本書『千の顔を持つ英雄』を読後、さっそくハリウッド映画を見てみた。
見たのはスター・ウォーズとマトリックス、ダ・ヴィンチ・コード、インディ・ジョーンズのそれぞれ第1作目。
 基準は私が好きな映画だからっていう理由だけだが、時に一時停止してメモしながら、観たけど、たしかにどの映画もこの『千の顔を持つ英雄』に書いているとおりの神話の構造で、できている。

 映画の主人公が神話の英雄に該当し、冒険への召命があり、召命拒否→何かしらの助け→最初の境界越え→試練→目的達成→帰還となっている。
 順不同だが、途中で仲間と出会い、観た映画の主人公がすべて男だったので、女神的な存在と誘惑する女性との出会いがあった。女性が主人公だったら、ここで出会うのは男性が多くを占める。
 帰還時には必ず最後のピンチが訪れる。そこで仲間や師の助けが入り、主人公は無事、宝に象徴されるものを持って帰還する。

 ざっくりと話しているが、それぞれがどういうものなのかは、もちろん本書に書いている。
 上記の構造は、SF、アドベンチャー、サスペンス、恋愛、ドラマ、全てのジャンルで見受けられる。順番の違いや入れ替えもあるが、大枠はこの流れでストーリーが進む。

 ハリウッド映画だけではない。ジブリ作品も、EVANGELIONも神話の構造に沿ったストーリー展開だ。私は観ていないが、ここ数年ヒットしているアニメ作品も同様だと思うが、どうだろうか?

■『千の顔を持つ英雄』を読後、どの神話を読むか?

 本書の読後、なにか神話を読みたくなるだろうが、どの神話を読んでもいいんだけど、個人的には、仏教か神道、古事記をおすすめする。
 これは『神話の力』でもジョーゼフ・キャンベルが言っているが、聖書では自然を敵視していて、人間が征服すべき存在になっている。一方、仏教・神道・古事記は、すべてに神が宿る、または、自然も人間もこの宇宙の一部であり、ひとつの存在としては、すべてが同じだという基本思想がある。
 これは本書を読めばわかるが、ジョーゼフ・キャンベルは、後者の立場をとっている。

 私は古事記、ギリシア・ローマ神話、北欧神話は読んだことがあるが(ゲームが好きだったから、その流れで読んだのだが)、聖書はまともに読んだことはない。あの厚さ、段組、フォントの小ささ。あれを読むとなると、はたしてどれくらいの時間が必要なのかと思ってしまい、これまで読まずにきてしまった。
 創世記と黙示録にはおおいに興味があるが、けっきょく読んでいない。

 と、ずいぶん長くなってしまったが、まだ言いたいことがあるので、続きは次回にする。

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