女のいない男たち – 村上春樹

Contents

■だんだん不穏になっていく短編集

「ドライブ・マイ・カー」
妻を亡くした俳優、家福。妻は定期的に浮気をしていた。
家福は浮気相手の一人である男と友人になる。
なぜ妻はその男と関係を結んだのか。

「イエスタデイ」
幼なじみと付き合っている2浪の木樽。彼女は現役で大学へ進学した。
関東出身なのに関西弁を話すために「留学」したりして、完璧な関西弁をマスターした。
ある日、木樽は僕に彼女と付き合ってみないか、お前とならいいと思うと持ちかける。
ずいぶん年月が過ぎてから偶然、僕は彼女と出会う。
そこで聞いたこととは。

「独立器官」
結婚を意識したり、特定の人と深く付き合うことをしたことがない渡会医師。
彼はずっと、相手がいる人や人妻と付き合ってきた。
付き合った人は、渡会が言わなくても、自らもう会えないなどという理由で去っていく。
複数の人とも付き合ったこともある。
しかしある日、渡会は人妻を本気で好きになり、今まで感じたことがない感情を抱く。

「シェエラザード」
何らかの事情があり、外出できない羽原。
彼のもとには定期的に女性が来て、食料や日用品を持ってくる。
事務的な性交もそのたびにしている。
女性は性交が終わると、いつも興味深い、不思議な話をする。
ある日、女性は自分の過去を話す。

「木野」
妻が自分のマンションの寝室で浮気している現場を見た木野。
彼は何も言わずにドアを閉め、そのままマンションに帰ることはなかった。
叔母が住んでいた家を改装して、自分が好きなレコードを流すバーを開き、2回に住んでいる。
神の田と書いてカミタという男が常連になり、どこからともなくやってきて、店にいる時間が増えた猫がいる。
ある時、木野は猫が帰ってこないことを知り、かわりに蛇を見るようになる。
不穏な気配が漂い、神田が珍しい時間に店に来て、閉店後に木野に伝えたこととは。

「女のいない男たち」
僕はかつての恋人が自殺したことを、夜中の電話で知った。
彼女はどう考えても自殺するようなタイプではなかった。
僕は彼女について思いを巡らせる。
実際とは違うが、14歳で出会った女性だと考えながら。

感想は下の目次のあとで。

■目次

まえがき
ドライブ・マイ・カー
イエスタデイ
独立器官
シェエラザード
木野
女のいない男たち

■男の弱さ、女の強さとしたたかさ

「イエスタデイ」までは、まあまあ、そういうこともあるかなって感じで読んでたけど「独立器官」あたりから、村上春樹さん特有の不穏さというか湿っぽさというか、深いところに入っていく感じが出てくるんだよね。
「木野」「女のいない男たち」は、村上作品を読み慣れていない人には難しいかも。
いや、読み慣れている人でも、やはり村上春樹さんの短編は難解だと思うかも。
私がそう思ったし。

にしても各短編とも、男の弱さをもろに書いていて、男としてわかるだけに辛かったなぁ。
実体験として経験はないけど、こういう状況になったら自分はどうなるだろうと考えたりすると、きつかった。
そして、各話に登場する女性は、すべてではないけれど、強さというかしたたかさを持っている。
これは私の経験上だけど、男性よりも精神的に強い女性が多いと思う。

たとえば自分が好きだと思っていない男への視線とか、恋人と別れたあとの切り替えとか。
もちろん、別れたあとにすぐに次の人と付き合える男もいるし、ひどい感覚を持っている男もいる。
それは逆に女性にもこういう人はいる。
あくまでも、経験上ってことなんだけどね。

「ドライブ・マイ・カー」「イエスタデイ」「独立器官」「シェエラザード」は、自分なりに理解できたし、共感するところがあったり、考えるところもあった。
「木野」は後半の村上春樹さんらしさが好きだし、ラストもらしいと思う。
「女のいない男たち」は村上春樹さんの短編らしさ全開って感じで、他の作品と比べて短いけれども、ちゃんと読まないとすぐに物語を見失う。

前向きな話もハッピーエンドもない。
妻であったり恋人であったり、女性を失った男が、これから何を抱えて生きていかなければいけないか。
抱えたものが解消される日がくるのかは、見えないままだ。
それでもあえていうなら、この短編集の中では「木野」が一番好きだな。

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