ツナグ – 辻村深月(新潮文庫)

Contents

■人生で一度だけ一人だけ、亡くなった人と会えるとしたら

一生に一度だけ、亡くなった人との再開を叶えてくれる「使者(ツナグ)」。
しかしそれは、生者だけではなく、死者にも同じ条件が適用される。よって死者は会いたいと願った者と会うかどうかの選択を迫られる。

誰にも言えずに、密かに心の支えだったアイドル。突然死した彼女に会いたいと願うOL。
ギリギリまで家族にも親族にも、年老いた母が癌だったことを言えず、母本人には最後まで伝えることができなかった頑固な長男。
親友への嫉妬と自分の行動。その気持ちを抱いたまま、亡くなった親友に会おうとする女子高生。
長年、失踪したままの婚約者を待ち続ける会社員。

それぞれの人が抱くもの。亡くなった人が伝えたかったこと、思い。
映画化もされた、第32回吉川英治文学新人賞受賞作。

■目次

アイドルの心得
長男の心得
親友の心得
待ち人の心得
使者の心得
解説 本多孝好

■あの人は私に会ってくれるだろうか
あの人に会う理由、資格はあるだろうか
それだけの人生を生きているのだろうか

生きることと死ぬこと。
自分なら誰に会うだろうか。
会って何を話そう、何を聞こう。
そもそも、自分はその人に会うだけの理由があるのか、資格はあるのか、いや、相手にとっても一度きりの生者との再会で、私に会ってくれるだろうか。
私はそれだけの人生を生きているのだろうか。
読後に思ったことは多かった。

どれだけお金を持っていようが、どれだけ権威があろうが、生きることに苦労していても、今の仕事が辛くても、もっとお金が欲しくても、どんな人にもいつかは死は訪れる。

死者は生者として帰ってこない。
死者が残すものは、お金やモノ、思い出、記憶。記録を残す人もいるだろう。
でもこれらは、死者のものであって、死者のものではなく、残された人たちのものになる。

じゃあ、死者そのものは、生者のための存在なのだろうか?
あなたはどう思う?

そして、残された人が抱くのは、死者への思いだ。
しかし逆に考えれば、死者も残したものへの思いがあるだろう。

死者が残した思いが、何らかの形で残っていたら、残された人はその思いを受け取ったり、受け入れたり、拒否したりもできる。
しかし、生者の思いは死者へは届かない。
だから悲しい。苦しい。辛い。(中には嬉しい人がいるかも知れないが)。

個人的な話をするけど、私は20代で、好きだった人を亡くし、友人を亡くした。
そして、話は飛ぶけど、私はここ数年「ただ生きていた」。
ふと思い出したんだよ。
2人どちらとも交わしていたとの約束を。

だから今、約束を果たすために動いてる。
これは、2人のためじゃない。
なぜなら、約束を果たしたところで2人には報告しかできないから。
そう、自分のためだ。
「ただ生きていた」人生はもう終わりにして、自分の人生を生きる。

もちろん、現実は自分が好きなことだけやってりゃいいような甘い場所じゃない。
やらなきゃいけないこともあるし、人間関係だってある。
仕事だって、どこかに勤めていれば、やりたくないことも納得できないこともやらなきゃいけない。
これらを踏まえて、自分の人生を生きる。
いつかやってくる死の時まで。

今の私がツナグに依頼するとしたら、約束を果たしたときだ。
でも、困るのは、2人の打ちどちらに会おうかということ。
そして、決めた相手は会ってくれるのだろうか。すでに誰かと会っていないか。
その時が来るまでわからないんだよね。

ちなみにこの『ツナグ』の中でどれが好きかっていうと、
どれも好きという、一番ずるいことを言っておく。

それぞれの話が、生きる上で大切なことを教えてくれているから。
忘れていたことを思い出させてくれるから。
中には苦い話もあるけれど、それも明日は我が身な話だ。

こういう連作短編集、やっぱ好きだなぁ。

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