わたしを離さないで – 著/カズオ・イシグロ 訳/土屋政雄

■淡々とした語りで明かされていく残酷な世界

「介護人」キャシーは「提供者」の世話を11年続けている。
生まれ育ったヘールシャムという名の施設での日々、施設を出たあとの生活、提供者として生きているかつての友人たちとの時間。
少しずつ明かされていく真実。
『日の名残り』で世界的に権威のあるイギリスの文学賞、ブッカー賞を受賞し、ノーベル文学賞も受賞したカズオ・イシグロの、世界的にベストセラーになった作品。

キャシーの独白の形式で語られていく物語は、抑えられていて、淡々と進むんだけど、物語世界の真実が少しずつ見えてきて、途中からはもうやめれらなくなって一気読み。

どこまで話していいのか判断に迷うんだよね。
どれを話してもネタバレやヒントにに繋がりそうなんだよ。
ミステリじゃないんだけど、ネタバレや先入観を持たずに読んでほしいんだよね、この本は。

さっきも言ったけど、キャシーの語り口調は淡々としているんだ。だから、劇的な展開はない。ないんだけど、この淡々とした語り口で明かされていく真実と、キャシーはじめ、友人のトミーとルース、その他の登場人物の感情や状態、状況に、心を揺さぶられて、胸を打たれた気分になった。

ヘールシャムでの日々は、子供らしく、私もこんな時があったなぁなんて思いながら読んでたんだけど、それもほんと最初のあたりだけでさ、やっぱり冒頭で主人公が「介護人」と「提供者」って言ってるから、それが気になるんだよね。

なんでヘールシャムは、図画工作に力を入れていたのか。健康診断が毎週行われていたのか。教師や先生ではなく保護官なのか。

ある程度の真実は、物語の中盤で明かされる。けど、本当の真実はもちろんラストだ。
でね、この物語は、物語世界の真実が何なのかが重要じゃないと思うんだよ。
1冊を読み終えて、最初から反芻(はんすう)して、キャシーたちの目線から見た世界と、保護官側の視線で見た世界、そして、キャシーたちと保護官たちも含めて、さらに客観的に見た世界では、見方が違うのはもちろんなんだけど、今のこのリアルな世界で起きていることと照らし合わせると、それはそれでまた違うものが見えてくるんだよね。

映画もあるし、綾瀬はるかさんが主演した、舞台を日本に置き換えたドラマもあるんだけど、これらを観たけど原作を読んでないって人は、やはり原作も読んだほうがいいじゃないかな。
映画やドラマって、どれだけ原作に忠実に作っても、やっぱり違うからさ。
特に小説が原作だったりすると、映画はダイジェスト版的なものになりがちだしね。

私が『わたしを離さないで』を読んだのは、これで3回目なんだけど、良い作品ってのは3回目でも読んでておもしろいなって、改めて思ったよ。

で、言いたいことはまだまだあるんだけど、このブログは読んだことがない人へ向けたブログなので、これ以上は言わない。
っていうか、言えない。

でも、読む価値がある本だよ。
あ、読むだけじゃなくて、考えながら読むか、読み終わったあと最初から振り返って、この物語に込められているものを味わってほしいな。

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