最後の秘境 東京藝大 – 二宮敦人(新潮文庫)

Contents

■好きだからだけじゃない。気がつくとやってる。
 やらなきゃ気がすまない。これしかない。
 色んな人が集まるところ。それが東京藝大。

入試の倍率は東大の3倍。そして卒業後の行方不明者は約半数。
上野動物園のペンギンを一本釣り、仕送りは月50万円、受験で肩を壊す。
元ホストクラブの経営者がいたり、40時間描き続ける人がいたり、口笛世界チャンピオンがいたり。
学期のために体が歪んで一人前だったり。
ブラジャー・ウーマンがいたり、ボカロと三味線を融合させたり、60代の同級生がいたり、かと思えば同級生は自分しかいなかったり。

まさに最後の秘境、東京藝大。
そこはカオスなのかユートピアなのか。

詳しい感想は目次のあとで。

■目次

はじめに
1 不思議の国に密入国
2 才能だけでは入れない
3 好きと嫌い
4 天才たちの頭の中
5 時間は平等に流れない
6 音楽で一番大事なこと
7 大仏、ピアス、自由の女神
8 楽器の一部になる
9 人生が作品になる
10 先端と本質
11 古典は生きている
12 「ダメ人間製造大学」?
13 「藝祭」は爆発だ!
14 美と音の化学反応
対談 東京藝術大学学長・澤 和樹✕二宮敦人
あとがき

■やってることはぶっ飛んでるけど、
 底にあるものを知れば、みんな同じ人間

好きだから、美術や音楽をやってる人。
好きではないんだけど、気がつくとこれしかやってない、これをやってるっていう人。
親への義理を果たすために藝大に入学し、卒業後はまったく違う道に進む人。
他の大学へ入学したけど、自分がやりたいことはこれだと卒業後や、中退して藝大に入学した人。

アスファルトで車を作って、提出したり展示が終わったら壊す。
ちゃんと分別する。

やってることが自分とかけ離れているから、話しても話が合うことなんてないだろう、っていうか話すことがないというか、何話したらいいかわからない気がする。
なんていうのは先入観で、この本に出てくる人たちの話はとてもおもしろいし興味深いし、もちろんすべての人とは言わないけど、もっと知りたいと思った分野があったり、もっとこの人のこと知りたいとか、この人の話を読みたいと思った人もいた。

音楽も美術も、文学も文芸も、大カテゴリでくくるのは乱暴だと自覚しながら言うけど、芸術という大カテゴリのなかにある分野には、ゴールがない。
エンタテインメントにもゴールがない。
あるのは、その作品を創り終わった、演奏した、歌ったという、いったんの区切りでしかない。
すぐに次に進む。次の作品に取りかかる。

好きだから。
好きじゃないけど、これしかないから。
気がつくとやっぱりこれをやってるから。
これが仕事だから。
理由はそれぞれなんだろうけど、終わりがないことをやり続けるのって、すごいことだと思わない?

前の作品で褒められたり絶賛されたりしたら、それは喜びでもあるけど次へのプレッシャーになる人だっているだろう。そんなの関係ないよって、まったく違うものを創る人もいるだろう。
それでも、やり続ける。創り続けるんだよね。

でもさ、今この文章を読んでくれているあなたもすごいんだと思うよ。
嫌だけど、他にないからとか、ネガティブな思いや感情もあるかもしれない。
逆に好きだから、やっとやりたい仕事に出会えたから、ずっと夢だったことだからっていう理由があるかもしれない。
理由や思いはともかく、あなたは毎日、学校に行ったり仕事をしたりしているわけだ。
生きるためには必要だから。稼がなきゃ食っていけないから。
っていう理由だけでなのかもしれない。
けどさ、それでもそうして毎日生きている。

普通になんにも考えずにいれば、それはすごいことだとは思わないかもしれない。
仕事をしてるってことは、ありふれた言葉だけど、あなたはどこかの誰かのために働いてるってことだよ。
必要じゃない仕事はこの世界にはないから。
必要だから、その仕事があるんだよね。
あなたがやっている仕事がなくなったら、誰が困るか、ちょっとだけ考えれば、すぐ浮かぶんじゃないかな。

芸術もエンタテインメントも、なければなくても人は生きていけるかもしれない。
っていう問いを、あなたに向けて、考えてみてほしい。

私はこの本を読んで、考えてみたんだけど、芸術やエンタテイメントがなくなったら、人生はとても色あせたものになるんだろうな。
楽しみも喜びもごっそりなくなってしまう。
それに、美術やエンタテイメントがあったからこそ、人はここまで進歩してこれた部分もあるんじゃないかな。

そして、その美術やエンタテイメントを創っているのが、私たちに見せてくれて、聞かせてくれているのが、この東京藝大に通う人たち、卒業した人たちなんだよね。
もちろん、東京藝大だけじゃなくて、芸術系の大学すべての人たちのおかげ。

いろんな人が、いろんな所で、いろんな仕事で、目には見えないけど繋がってるんだよね。

読後、最初に思ったのは「よし、明日もがんばろ」だったよ。

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