私の読書の履歴書5 中学生4

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●赤川次郎

当時、父親が暇つぶしに読んでいた赤川次郎と西村京太郎の文庫や新書を、読後に私に渡していた。
私も読む本がないときに読んでいたんだけど、西村京太郎の作品で、今思い出しても浮かんでくるものがない。
サスペンスドラマの定番だけに、中学生には犯人の動機など、あるていど歳を重ねなければ、よくわからないものが多かったからかもしれない。

赤川次郎の本は、2つのシリーズが好きだった。
三姉妹探偵団と大貫警部シリーズだ。
なぜか父親は三毛猫ホームズシリーズが好きじゃなかったみたいで、私の手元には一冊もやってこなかった。そして私は私で、赤川次郎をそれほど熱心に読んでいたわけでもなかったので、三毛猫ホームズシリーズをあえて買うこともなかった。

三姉妹探偵団、大貫警部シリーズ、どちらも本格推理というよりは、ライトなドラマといった感じだ。
赤川次郎さんと、ファンの方には申し訳ないが、あれほど読んだのに、大貫警部が型破りで豪快だってこと以外、内容を思い出せない。
三姉妹探偵団にいたっては、三姉妹の名前すら出てこない。

●ジーキル博士とハイド氏

中二か中三のときに、読書感想文を書くために読んだ。
中学校三年間で、読書感想文のために読んだ本で思い出せるのがこの1冊だけというのも、自分が情けなくなる。

読む前は、なんか怖そうな話だと思っていたんだけど、読み終わった直後の感想は「これは極端な話だけど、人ってこういうところあるよね」だった。

友人、親、学校の先生の前にいる時だけではなく、一歩外に出た自分と、部屋に一人きりでいる自分が、完全に同じ自分かどうか。
いつも自分の内面にだけ抑えている異性への思い、肉体的な欲望、精神的な欲望や衝動。
これらはほとんどの人は内に抱えたままだろう。
しかし、それを抑えられず、こらえきれず、行動に移してしまう人もいる。
誰にも見つからないように、誰にもばれないように。

それが1度だけで、誰にも見つからず、誰にもばれなかった時、残念なことに人はいつか再びそれを行動に移す。
抑えられず、こらえきれなくなったとき。

この『ジーキル博士とハイド氏』は人の二面性を小説という形で表した。
二面性ではなく、多面性を持っている人もいるだろう。

この物語の怖さは、ジーキル博士とハイド氏の二面性ではない。
自分自身の内側にある欲望や衝動の存在に飲み込まれた1人の人間の物語であり、私もあなたも自分をしっかりと持っていなければ、この物語のようになる可能性があるということだ。
法律を犯すこと、倫理や道徳を犯すこと、犯罪を行うこととは、そういうことなんだから。

楽天ブックスでは2018年9月15日現在、取扱なし。

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●芥川龍之介

小学生の時に読んだ『杜子春』『蜘蛛の糸』が読みたくなり、新潮文庫版の芥川龍之介の本を、当時出版されていたものは2冊くらいのぞいて、読んだ記憶がある。

『蜘蛛の糸』は中学生の時にはすでに興味を失っていて『杜子春』はなぜか好きなままだったんだけど、新たに気になったのが『藪の中』と『歯車』だった。

『歯車』は、芥川龍之介の最晩年の作品だ。
主人公の「僕」に死の予兆、イメージがつきまとい、夜の東京の町を彷徨う話だ。
ときおり、くり返し出てくるのが、視界に歯車がまわるが見えるという文章。やがて僕はひどい頭痛に襲われる。

この、視界に歯車が回るのが見えるというのは、現在では偏頭痛が起きる前の前兆である閃輝暗点(せんきあんてん)だと言われている。
といっても、偏頭痛持ちの人すべてに歯車が見えるわけではない。
人によっては、視界がチラチラしたり、キラキラ光る小さな星のような点が視界いっぱいに広がったりとさまざまだ。
私も偏頭痛持ちだが、私の場合は、上記のキラキラ光る小さな星のような点が視界いっぱいに広がるときと、黄色がかった白に青い星のように光る小さな点が無数に広がり、視野が狭くなったりする。

現在、新潮文庫では『河童・或阿呆の一生』に収録されている。

楽天ブックスはこちら – 河童/或阿呆の一生改版 (新潮文庫) [ 芥川龍之介 ]

中学生時代にもうひとつ気になった芥川作品が『藪の中』だ。
ある犯罪について、複数の証言者・当事者の話をまとめた作品なんだけど、証言者・当事者の話が矛盾したり噛み合わなかったりして、しかも最後まで真相がわからないまま終わり、真相は読者に委ねられる。

刑事ドラマや小説などで、複数の証言がうまく合わなかったり、矛盾していて、事件の方向性を見失ったときに「事件は藪の中だな」というような台詞が出る時があるんだけど、この藪の中はまさに芥川龍之介のこの作品からきている。

多くの人が研究し、犯人は誰なのかを見つけようとしてきたんだけど、現在に至るまで正解が見つかっていない。
そもそも正解がわからないように書いているんじゃないかと思うんだけどね。

私は、これは推理小説のように読むものではなくて、人の記憶の曖昧さ、いい加減さを書いた作品だと思ったし、今でも思っているから、犯人探しのように読んだことはない。

この作品は現在、新潮文庫では『地獄変・偸盗』に収録されている。

楽天ブックスはこちら – 地獄変/偸盗改版 (新潮文庫) [ 芥川龍之介 ]

っていうか、まいったな。
中学生時代、まだ終わらない。このペースでいくと、高校時代はもっとあるし、高校卒業後は終りが見えない。
ま、いいっか。

というわけで、また次回。

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