とにかくうちに帰ります – 津村記久子
Contents
■いそうな人、ありそうなシチュエーション、なのにこんなにおもしろくて切実で温かい。
「職場の作法」「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」「とにかくうちに帰ります」の3つの短編集。
とある会社で事務員をしている鳥飼早智子が語り手として、ちょっぴりクセのある職場の人たちを描く「職場の作法」。「職場の作法」に登場する一人にスポットライトを当てて、描く「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」。そして、大雨の中、ただただ、とにかくうちに帰る人たちを描いた表題作「とにかくうちに帰ります」。
日常のささやかな出来事を淡々と書いていて、大きな事件も出来事も起きない。なのに、いや、だからこそ覚える共感。
いつもなら意識すらしない、意識したとしてもなんともないことだとすっと流したり忘れたりするようなことを文章に現し、「あぁ、みんなこういう思い、持ってるよね」と思わせるのは、津村さんの才能だ。
派手な物語が好きな人へはおすすめしない。
くすっと笑えることが好きな人は、読んでみたらどうだろう。
ちなみに、帯は宮部みゆきさんと西加奈子さんが書いている。
それと、西加奈子さんは解説も書いているが、こちらは読後に読むことをおすすめする。
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■目次
職場の作法/
ブラックボックス
ハラスメント、ネグレクト
ブラックホール
小規模なパンデミック
バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ
とにかくうちに帰ります
解説 西加奈子
■世の中捨てたもんじゃない。もしかしたら自分が感じているより、少しはマシ、いいところなんじゃないだろうかって思える
津村記久子さんが見ているもの、見えているものは、おそらく誰にでも見えているものだ。多くの人は気にしなかったり、たいしたことじゃないと流して、忘れてしまう。
しかし、こういうところにこそ、その人を知ることの鍵になったり、日々を生きることの(小さな)支えになったりしているものがある。
表題作「とにかくうちに帰ります」が私は一番気に入った。
大雨のため、会社が定時より早く終わることになり、家に帰ることにした主人公ハラ。途中のコンビニで会い、一緒に帰ることになる後輩のオニキリ。
サラリーマンのサカキと大人びたことをいうけれど、やはり年相応な小学生のミツグ。
ハラとオニキリのやりとり、サカキとミツグの会話が、大雨というシチュエーションの中進む。
ラスト近く、サカキが行き倒れのようになっているところに、ハラとオニキリが出会うシーンがあるが、そこが好きだ。もちろん、ラストもじわっと暖かくていい。
大雨という状況だから、小説だから。
そういうことではなく、日々の些細なことを大切にすれば、この世界は、今よりも少しはマシに見えるかもしれないし、少しは生きやすくなるのかもしれない。
そんなことを思った。
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