僕は小説が書けない – 著/中村航・中田永一

2018年3月7日

Contents

■何故か不幸を招き寄せる高校生が、廃部寸前の文芸部に入部して……

 何故か不幸を招き寄せる高校一年生の光太郎は、一年上の七瀬に強引に、廃部寸前の文芸部に入部させられる。そして、部の存続がかかっている部誌制作のため、光太郎も小説を書くことに。
 しかし、書けない。
 はたして、光太郎は学園祭までに、自分のオリジナルの小説を書くことができるのか?

 個性的な登場人物、青春、自分だけの物語探し。二人の人気作家が合作した青春小説。作中に出てくる、小説執筆についてのヒントが、初心者には本当に書きたい人へ向けてのアドバイスであるところが、これまた好きだ。
 たとえば、とかく無駄な文章、装飾が多い文章を書いてしまうという初心者に向けて、木下是雄の『理科系の作文技術』を紹介していたり、先輩の原田が教えてくれるのがエンターテイメント映画の脚本術を下地にしたものであったりする。

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■目次

第一章 降ってきた僕
第二章 小説の書き方
第三章 書けない理由
第四章 その夏の永遠
第五章 答は風のなか
解説 「小説が書けない」のその先へ 三上延

■続編希望

 読後、続きが読みたいと思った。
 しかし、どうやら今のところ、この本はこれで終わりらしい。終わりにするにはもったいないほど、主人公光太郎はじめ、登場人物が愛おしい。

 また、これと言った事件も起きず、言ってみれば日常系の物語で、魔法も異世界も出てこないのに、ここまでおもしろく読んだのは、やはり中村航さんと中田永一さんという2人の才能だろう。

 OB2人の個性も、作品にアクセントを放っている。御大(おんたい)の存在は大きい。御大だけでスピンオフが一冊書けそうなバックグラウンドがありそうだし、原田が語る創作術はエンタメ小説全般における基礎基本だ。

 光太郎と七瀬の関係は、まあ読めばわかるが、他の文芸部員についても、それぞれもう少し掘り起こしてほしい。
 でも、掘り起こすのはこの作品でやってほしいのではなく、次回作以降でやってほしいという、個人的な希望だ。
 この作品はこの作品で、これでじゅうぶんおもしろい。
 この作品のテイストで、長さで、シリーズ化してほしい。

 本好きなら、一度は自分でも小説を書こうと思ったり、じっさいに書いたりした人は少なくないはずだ。私は一度ではなく、何度か新人賞に応募した過去がある。
 とはいえ、2次選考までは進むものの、そこから先には一度も通らなかった。3次選考まで一度でも進んでいたら、ずっと書き続けていたかもしれない。

 あきらめたわけではない。
 いや、そろそろ潮時なのをわかっていて、仕事や家庭のことを言い訳にしてあきらめたのかもしれない。
 ただ、この本を読んで「自分だけの物語」をまた書きたいという気持ちがわいてきたのは、必然だろう。
 そういう意味では、作家になることをあきらめた人は、気をつけたほうがいい。
 私はこの作品の読後、今の自分が書いたらどんな小説を書くのか気になっている。そう、つまり、また書き始めている。

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