MOMENT – 本多孝好

2018年3月7日

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■死の前に叶えたい願いを1つだけ■

 死を前にした人たちの願いを、1つだけ叶える主人公。
 4つの物語で構成されている、連作短編集。

 というと、仕事人とか、京極夏彦さんの巷説百物語シリーズが浮かぶ方もいるかもしれないけど、この『MOMENT』は違う。恨みつらみだけを晴らすのでもなく、国や役人が絡んでいるわけでもなく、願いを叶える主人公は社会から外れているわけでもない。

「FACE」「WISH」「FIREFLY」「MOMENT」の4つの物語のうち、個人的には、最も本多さんらしいと思った「FIREFLY」が一番好きだな。
 タイトルでもある「MOMENT」は、じゃっかん?無理矢理感があったかな。

 読後に、何かが残る作品。
 何が残るのかは、読んだ人それぞれだけど。
 それが良い小説の要因の1つだとおもうんだけど、どう?
 もちろん、ジャンルによって良さは違うし、他にも良い小説の要因はある。

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■読後の感想■

 『WILL』『MEMORY』に続くシリーズの第1作なんだけど、ファンのみなさん、ごめん。私、この『MOMENT』が一番好きだ。そして、あとの2作は……正直、いまいち。

 文体も、主人公の設定も、死を扱っている作品でありながら、重くなく、読みやすかった。

 本多さんの本は『FINE DAYS』あたりまでは、生きることを肯定的に捉えられる作品が多くて好きだな。
 長編を書き出したあたりから、変化があって、これもファンの方には申し訳ないですが、長編も『正義のミカタ』までは、
「本多さん、短編書いてくれないかな」
って強く強く思ってた。

『チェーン・ポイズン』『ストレイヤーズ・クロニクル』はそれぞれ楽しめましたし、好きだけど。

 この『MOMENT』は、死を扱ってるとはいえ、テーマは死ではなく、むしろ生。これまでの本多さんの作品に流れていたものと同じく、生きることについて肯定的。

 いや、死も生の一部である。もしくは、人に限らず命あるものはすべて、生まれたその瞬間から、死に向かって生きていることを確認できる本かな。

 せつないし、苦しいし、やるせない。
 生きることは、楽ではないし、簡単でもない。嫌なこともあれば、嫌な人とも出会う。辛いこともあるし、どうしようなくなることもある。中には、自ら死を選んでしまう人いる。
 ニュースを見れば、悪いことばかり起きているような気持ちになる。

 それでも私は生きているし、多くの方は、歯を食いしばって、辛さに耐えて、苦しさを背負って生きている。

 他の人から見たら、たいしたことでなくても、自分にとっては一大事なことだってある。
 その逆だってある。

 なんでだろうね?
 なぜ人は、生きることを選択するんだろうね?
『利己的な遺伝子』にあるように、生きるように遺伝子に組み込まれているから?
 それもあるかもしれない。

 でも、それもそうかもしれないけど、辛くても苦しくても、そこから出るためにあがいて、もがく。
 そこには、ここから出た後に待っている何かという、それがどんなに大きくても、どんなに小さくても、夢や希望があるからじゃないかな?

 amazarashiというバンドを知ってる?
 私たちはいつも雨ざらしだ。それでも……
 というコンセプトでつけたバンド名だそうだ。
 歌も、このコンセプトに沿って作られた歌が多い。
 話がずれましたが、興味のある方は、YouTubeで聴いてみて。

Amazon-MOMENT (集英社文庫)

楽天ブックス-Moment (集英社文庫) [ 本多孝好 ]

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