dele – 本多孝好

2018年6月20日

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■自分がこの世を去ったら消してほしいデータ〈記録〉そこへ込められた思い、願い〈記憶〉

dele=ディーリー。校正用語で「削除」の意。

「死後、誰にも見られたくないデータを、その人に代わってデジタルデバイスから削除(delete)する。それがうちの仕事だ」。
所長であり、唯一の社員である坂上圭司はdele.LIFE(ディーリー・ドット・ライフ)について、こう語った。
「フリーランスのガキの使い」としてグレーな仕事をしてきた真柴祐太郎が、この事務所に入ったのは3ヶ月前。
様々な人から寄せられる依頼。
自分がこの世を去ったら消してほしいデータ〈記録〉と、そこへ込められた思い、願い。
そして、遺された人の思い。

淡々と依頼されたデータ消去だけをしてきた圭司と、圭司の仕事ぶりに疑問を持つ裕太郎。
依頼人のデータを覗き見た2人が直面する真相、事件。

2018年7月からは、テレビ朝日系で毎週金曜日、夜11時15分からドラマ化。
主演は山田孝之さんと菅田将暉さん。

『MISSING』『MOMENT』『WILL』など、多くの作品で「生と死」に向き合っってきた本多孝好さん。
本多孝好さんの作品では、『MOMENT』『FINE DAYS』がもっとも好きだったんですが、今回『dele』を読んで、『MOMENT』よりも好きな作品になりました。
なぜなら、『MOMENT』がこの世を去っていく人に焦点を当てている作品だったのに対し、この『dele』は、この世を去った人が遺された人へ込めた思い・願い、そして、遺された人のこれまでとこれからに焦点を当てているからです。
『MOMENT』が喪失の物語だったとしたら、この『dele』は喪失のあとの再生へつながる、本当にささやかな、かすかな光、希望までつなげているところが気に入りました。

圭司と裕太郎についても、過去も含めまだ明かされていないことがあるので、今後が楽しみです。

これも個人的な思いですが、本多孝好さんは長編よりも短編、連作短編の方が好きです。
dele2も発売。
もちろん買いです。

では、目次の紹介のあとは、ネタバレありで、この物語の感想を言っていきます。
まだ読んでいない方は、自己判断でこの記事を読み進めてください。

■目次

ファースト・ハグ
シークレット・ガーデン
ストーカー・ブルーズ
ドールズ・ドリーム
ロスト・メモリーズ

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■生きることの辛さ、苦しさと、生きることへのあたたかさ、光

この連作短編集で私が好きなのは、
ファースト・ハグとドールズ・ドリーム。

ファースト・ハグの依頼人は報われなかったが、遺された彼女は、依頼人の想いを受け止めて生きていけるだろう。
ドールズ・ドリームも、依頼人の母としての想いがあたたかい。こちらも、遺された主人と子供は、母親の想いを胸に生きていけるだろう。

シークレット・ガーデンは変化球で、個人的には、こういうこともあるだろうと思った。
ストーカー・ブルーズは、私が依頼人とは、どちらかというと真逆の性格なので、推測でしか共感できなかった。

ロスト・メモリーズは、共感というよりは、読まされた。
構成、仕掛け、人間関係と、短編推理小説を読んだ感じだ。
ラストの圭司と裕太郎のやり取りが良かったなぁ。

本多孝好さんの作品を読むたびに、生きることは辛いことも苦しいことも多いけど、それでもどこかに光は射すし、それほど悪いことでもないと思う。
また、これも本多孝好さんの作品の特徴だが、どんな理由であれ、人を死に至らしめた者へは容赦がない。
たとえそれが復讐でも嫉妬でも、殺された人がとことんの悪者であっても。

殺された人が、本当の悪人であったとしても、その人に死を持って罰を与えるのは違うのではないか。目には目を歯には歯をの思いや考えでは、この世界からはいつまでも戦争も争いもなくならない。
かといって、許すのとも違うし、放棄するのとも違う。
犯罪を犯したものは、憲法と法律によって、しかるべき場所、立場の人によって、裁かれる。
それが日本という国だ。
復讐であろうが、相手が極悪人であろうが、その相手を傷つけたり、死に至らしめたら、その人も裁かれる。

先に向こうがやったから、こっちもやり返す。
これがまかり通ると、それはもうただの無法地帯だ。

苦しさに、辛さに押しつぶされそうでも、暗闇のどこかに、遠く、小さく、かすかであっても、どこかに光が射している。ゆっくりでいい、恐る恐るでいい、その光の射す方へ進むことで、やがて光はほんの少しずつではあれ、大きく眩しくなる。
確かなことではないけれど、そう信じて進むことだと思う。

ところで、あなたは自分の死後、見られたくないデータがスマホやパソコンにありますか?
私?この本読んでから探してみたら、いくつかあるんですよねぇ。

Amazon – dele (角川文庫)

楽天ブックス – dele (角川文庫) [ 本多 孝好 ]

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