ナチスの「手口」と緊急事態条項 -著/ 長谷部 恭男・石田 勇治

Contents

■そもそも緊急事態条項って何だっけ?って思って読んだら、日本国憲法の改正案の内容が想像以上にやばかった

 まっさきに言っとくけど、私は右でも左でもないし、どっかの団体にも所属していないし、するつもりもない。これから書くのは、私個人がこの『ナチスの「手口」と緊急事態条項』を読んで思ったこと、考えたことだ。
 ほんと、これだけは強く言っておく。じゃないと、今の世の中、いろいろと面倒でしょ。
 というわけで、はじめる。

 この記事は2018年3月7日に書いた。現段階では、森友・加計学園問題や韓国・北朝鮮の融和ムード、伊調馨選手のパワハラ問題などがニュースやワイドショーを騒がせているが、忘れちゃならないのが、憲法改正に向けての動きが加速しつつあるということ。
 私にとってはなんでそんな急いで憲法改正したいのかが、まずはまったく理解できないんだけれど、どうしても今すぐにでも改正したい人や人たちがいるみたいだ。
 中国の軍備拡大や海洋進出、中国と韓国との領土問題、現段階では融和ムードが流れているけど、どうなるかわかったもんじゃない北朝鮮の核問題など、安全保障面での改正が急務だというのも、わからなくはない。でもこれって、戦争するのを前提としてないか?って気がしないでもないんだけど、どう思う?
 なにはともあれ、改悪にならなきゃいいけど……

 で、今のところ憲法のどこをどう変えたいのかっていうのを調べてみた。

1 憲法96条

  第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
  日本国憲法より引用

 この「三分の二以上」を「過半数」にして、承認のハードルを下げたいらしい。でも、米独では「三分の二」が要件となっている。じっさいに、今の与党の数だと、過半数以上にハードルを下げると、提案した改正案は100%に近く承認されることになる。ということは、与党にしてみれば、提案したい放題になる。ズルくね?

2 憲法9条

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
   日本国憲法より引用

 私の私見だけど、今現在、最も注目されていて議論されているのが、憲法9条の改正。自衛隊ってそもそも戦力だよね?
でも、戦後すぐといっていいくらいに1950年に警察予備隊が1952年に保安隊が発足した。そして1954年に自衛隊が発足している。
 これもGHQが日本国憲法を作っておきながら、さすがに日本に武力が何もないといろいろと不都合があるってことで、日本にも軍を置くことを指示して作られたらしいから、これまた強引というか無理矢理なことだ。
 あくまでも国を守るためにある軍事力ということで自衛隊なんだけど、けっきょく国連平和維持活動のために、憲法解釈をこれまた無理やりというか強引にというか力技でねじ曲げて、1990年代には海外派兵も行われることになった。

 だから、憲法9条を変えて「自衛権の発動」という言葉を入れて、正式に軍事力の保持を認めようよってことだ。
 これまた、ねじ曲げて海外派兵にまでいたった論理でいくと、海外派兵して海外で武力を発動できることになりかねない。

 憲法はそれぞれの条項が短い文章で書いている。だからこそ、そこにある日本語をしっかりと読み込まないと、抜け道抜け穴、ほころびがあちこちに出てくる。
 現在自民党が公開している草案は、条項のあちこちを参考にしながら、注意深くしっかりと読まないと「え?もしかしてこれって、こんなことやあんなことも簡単にできるようになっちゃうんじゃね?」というような、国や地方自治体のトップにとって都合のいい解釈ができる条項がゴロゴロしている。

 で、私が思うに、憲法9条と同じくらいちゃんと考えなきゃいけないのが、新たに盛り込もうとしている「緊急事態条項」だ。
『ナチスの「手口」と緊急事態条項』を読んで初めて知ったんだけど、この緊急事態条項。今の自民党草案だと、発動された瞬間、私たちの財産も自由も、挙げ句の果てには人権すらも国に奪われてしまう文章になっているそうだ。

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■目次

はじめにーー「憲法問題」の本質を見抜くために  石田勇治
第1章:緊急事態条項は「ナチスの手口」–大統領緊急令と授権法を知る
第2章:なぜドイツ国民はナチスに惹き付けられたのか
第3章:いかに戦後ドイツは防波堤をつくったかーー似て非なるボン基本法の「緊急事態条項」
第4章:日本の緊急事態条項はドイツよりなぜ危険なのかーー「統治行為論」という落とし穴
第5章:「過去の克服」がドイツの憲法を強くした
おわりにーー憲法の歴史を学ぶ意味   長谷部恭男

■緊急事態条項もかなりやばい。下手すりゃ私たちの財産、自由がすべて奪われるかも。
ファシズム。ヒトラーの時代は「緊急事態条項」からはじまった。
濫用されたら、あの時の日本に戻りかねない。

 まずは、憲法改正の現時点での自民党草案を読んでほしい。

第九十八条
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2
緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3
内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。
また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4
第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。
この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。

第九十九条
緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2
前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
3
緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。
この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
4
緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。
   日本国憲法改正草案 自由民主党より引用

 上記第4項にある、第60条第2項は現行憲法のままだ。こちらにはこうある。

第六十条 予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。
2 予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
   日本国憲法より引用

 つまりは今の国会中継や予算委員会中継でときおり見られるような、与党が強引に可決するあの状態が、緊急事態条項時にも普通に行われるということだ。
 と、いうことを前提に、この緊急事態条項について、もう少しだけ見てみよう。

 この緊急事態条項を理解するには、ナチスの独裁がどういう過程で行われたのか、手口はどんなものだったのか、そして、憲法とはそもそも何なのかということを理解した方がいい。
 そのあたりは、この『ナチスの「手口」と緊急事態条項』をじっくりと読んでほしい。なぜなら、この記事はこの本の感想と本を読んだ後に私が考えたことを書いているんだから。そのあたりは、わかるよね?わかってもらえるよね?

 まずは、フランスにも緊急事態条項はあるが、発動には高いハードルがある。アメリカにもあるが、アメリカの場合、不当に身柄拘束をされている場合は、いったん裁判所に身柄をあずけなければならないことになっている。アメリカは三権分立がしっかりしている。大統領が好き勝手できないシステムができあがっているのだ。

 そして自民党草案の緊急事態条項。
 第98条を読むと、緊急事態宣言は内閣総理大臣が内閣や政府は関係なく、自分で決めて発動できるように書いている。たとえば極端な話、中国船が領海侵犯しただけでも緊急事態宣言を発動できる。
 なぜなら「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるとき」という、ぱっと見ると限定しているようで、ちゃんと読めばとても幅の広い状況でも発動できる規定になっている。「等」とか「その他」って便利な言葉だね。

 で、「法律の定めるところ」とあるが、これは改正後に法律を定めることになるんだろう。となると、その法律も要注意だ。ちなみにナチス時代にも同じ言葉があったが、法律は定められなかった。

 次に第99条3項。
 ここで出てくる「第14条、第18条、第19条、第21条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。」っていうところ。
 尊重されなければならないのであって、制限してはならないわけではない。つまり、時と場合によっては制限するかもよってことだ。
 ちなみに自民党草案の第14条、第18条、第19条、第21条は、それぞれ以下の権限だ。
 ・第14条:人種・信条・性別・社会的身分の法の下の平等
 ・第18条:奴隷的拘束及び苦役の禁止
 ・第19条:思想及び良心の自由
 ・第21条:表現の自由
 これらがすべて制限されるということは、どういうことか、考えて想像してみてほしい。自由なんてかけらもない。

 第99条第1項「緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。」だって、そうとう怖い。
 内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるんだよ。さらに、「内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる」っていうんだから、つまりは内閣が地方自治体もそして国民全員もいっさい反対させず、指示に従わせることができるってことだ。

 そもそも、緊急事態条項は本当に必要なのか?
 私はこの本を読んだ感想として「必要ない」とした。
 っていうか、憲法改正そのものが、何をそんなに焦ってるの?という気持ちだ。
 こんな危ない、怖い憲法になるくらいなら、憲法改正は今のところいいから、もっと他に、この国に、私たちの今と未来にとって必要な議論をしてほしい。

 ただし、反面、どうにかしなければいけない状況が訪れるかもしれないのも事実だ。
 中国の軍拡、朝鮮半島の融和、領土問題。
 日本は平和な国だけれど、けっきょくは日米安全保障条約で、何かあったら米が守ってくれることになっているからだ。そう、私たちは軍事上では、原爆を落とされた国から守られているのだ。
 これがたとえば、これまた極端な話、米がある日、日本からいなくなったらどうなるか?
 たぶん、その日にでも日本を侵略するために攻撃をしかけてくるであろう国が、すぐ隣りにある。

 清濁併せ呑む。
 白黒はっきりつけれられないことが、世の中にはたくさんあるもんだよ。

 さて、あなたは憲法改正について、どう思うだろうか?
 まずはこの『ナチスの「手口」と緊急事態条項』を読んで、読後、自分の頭で考えてみるところから始めてみてはどうだろうか?

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