私の読書の履歴書16 20代前半3

当たり前の話なんだけど、思い出しながら話すことと、すぐに浮かんでくるものを話すのとは違うなぁと、前回の『風の歌を聴け』と『1973年のピンボール』のことを話しながら思った。
『風の歌を聴け』は何度も読み返してるから、あまり苦労せずに思い出せたんだけど『1973年のピンボール』はなかなか思い出せない。
タイトルにあるとおりピンボールが出てくるし「僕」と「鼠」の話が交互に描かれている。双子も出てきた。けど、思い出せることがあまりにも少なかった。

これは他の本にも言えることだし、本以外のことにも言えることだけどね。当たり前なんだけど。

ひとつだけ言えるのは、村上春樹さんの作品は、デビュー作の『風の歌を聴け』から刊行順に読んだほうがいいということ。長編だけじゃなくて短編集も含めて順番に。
その方が理解が進む。

それと、読む前に批評や解説、謎解きなどは読まないほうがいい。
「こんな難しいのかよっ!」っていう先入観を持ってしまうから。
楽しむためだけに読んでもいい。
読み終わってから、気になったことを調べればいい。
いろんな人がいろんなことを言ってるから、混乱するかもしれない。
そんなときは思い出してほしいんだけど、村上春樹さんは何度も言ってる。
読んだ人の解釈でいいって。

私は『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』を続けて読んだけど、最初は物語として読んだ。
仕掛けや隠されていることなんて気にせずに。
『羊をめぐる冒険』を読み終わったときに『1973年のピンボール』を読んでてよかったと思ったくらいだ。
つまり『羊をめぐる冒険』を読まなければ、また、順番に読んでいなければ『1973年のピンボール』は、私の記憶の奥底に沈んでいたかもしれない。

というわけで、今回はこれから。

 

 

Contents

●羊をめぐる冒険

物語として、表面に見える文章だけを追っても素直におもしろかった。
まさに「私」の「羊をめぐる冒険」だから。

妻と離婚した直後に、大学時代に付き合いのあった誰とでも寝る女の子が交通事故で亡くなった。
直後、耳専門のモデルをしている女性と出会う「僕」。
ある日、その新しいガールフレンドと一緒にいるときに突然彼女が言った。
「あと十分ばかりで大事な電話がかかってくるわよ」
彼女ははっか煙草を吸って「羊のことよ」と言った。「そして冒険が始まるの」。
「僕」の羊をめぐる冒険が始まる。

私の記憶が確かなら、この本は村上龍さんの『コインロッカー・ベイビーズ』を読んだ村上春樹さんが、物語性のある長文を書きたいと思ったのがきっかけだったと思ってる。
そして作品を書くにあたって影響を受けているのがレイモンド・チャンドラー『長いお別れ』だったんじゃないかな。

前2作に登場していた「鼠」は街を出て行方不明。
この作品で村上作品ではおなじみの羊男が初登場するけど、正式な意味では違うんだよね。まあ、何が違うかは読んでからのお楽しみということで。
いるかホテルが出てくるのもこの作品だったな。

で、まあ、読み返すと見えるのがいろんな仕掛けなんだよ。
村上春樹さんの作品はこの仕掛けを解くのも楽しみのひとつとするか、物語として読むだけにするかにもよるんだけどね。
ただ、読み返すことで、裏にある見えない物語があったりもする。
これは前2作も同様なんだけど。
『風の歌を聴け』なんて、あんなに薄い本なのに、いろんな仕掛けがほどこされている。時系列はシャッフルされているし、3人出てくる女性の登場人物も、表面には描かれていない物語がある。
『1973年のピンボール』も同様だ。

あの薄さでいろいろと詰め込んでいるんだから『羊をめぐる冒険』はどうかというと、物語性を出そうとして書いたものだから、仕掛け自体は多くない。
でも、もちろん描かれていないことはある。

また、村上春樹さんの長編ではよく、現実の、客観的なこの世界と、いわゆる向こう側の世界の話が入り乱れている。
それは生と死であり、外と内であり、現在と過去、生者と死者、こちら側と向こう側だ。
これらを分けようとするのではなく、自分自身には常に、今も同時にあるもので、分けるものではなく、境界線があるものでもないと、私は受け止めている。

ちなみに初期三部作から数年後、4部作とも言われる『ダンス・ダンス・ダンス』が刊行されるんだけど、この話はまた今度。

 

 

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●限りなく透明に近いブルー

村上春樹さんの初期三部作を読み終えて、次も村上春樹さんでいくか迷っていたときに、同じ村上姓であり、同じ棚に並んでいたことと、タイトルに惹かれて買った本。
まあ、この本も薄くて安かったし。

で、読み始めてすぐに文章の密度の濃さに圧倒された。
その理由はこの小説が1人称であることと、主人公の行動を知ることでわかってくる。

本当に重要な部分以外では極力感情、感情的な言葉も文章も使わず、見たものを描写しているんだけど、グロかったりえげつなかったりする言葉が、なぜか美しく感じる時があった。

じわじわと退廃していく主人公と仲間たち。
いつから登場して、いつからいなくなったのかわからないんだけれども、そこが気にならないように書いている。

ネタバレにはならないから書いちゃうけど「黒い鳥」「白い起伏」あなたはどう解釈した?
私がどう解釈したかはネタバレになるから書かない。

いけない薬を使ったりとか、そういうことに気を取られず、焦点を当てず、最後まで読んでほしい。
読んだほうがいい、いや、読むべき作品だと思う。

 

 

 

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