私の読書の履歴書24 20代前半11

作家を目指していた当時の私は、いわゆる小説の書き方本を立て続けに読んでいた時があったんだ。
ディーン・クーンツの『ベストセラー小説の書き方』も読んだ。

  楽天ブックスはこちら→ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫) [ ディーン・R.クーンツ ]

  Amazonはこちら→ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫)

そしてふと思ったんだよ。
書くことって、書くことを学んだら、次はさっそく書くんじゃなくて、良い本を読まなきゃわかんないってことに。
しかもそれは、ベストセラーじゃなくて、ロングセラーや、数十年、数百年生き残った古典や文学を読んだほうがいいって。

で、これは読み手、つまり私たち読者としての基本的な心構えなんだけど、文学を読むときとエンタメを読むときは、読み方を変えなきゃいけないっていうこと。
エンタメは基本、全部書いてる。ストーリーは隠されているものはないし、書かないこともない。登場人物が何を思って何を考えたかもほぼ書いている。書いていなくても文章を読んで、ちょっと考えればわかるようになってる。最後まで読めばね。

でも文学は、登場人物が何を思って何を考えたかを省略するし、文章には現れない物語があったりする。
それは、最初っから書かないことにしていたものもあるし、物語性を排除するためにあえて削ることもあるし、その小説には必要ないからごっそり削っているものもある。

もちろん例外はあるよ。エンタメでも書かないことがあったりする。シリーズを通して全10巻かけて、些細なヒントだけを出して、わかる人にはわかる仕掛けを施している作品もある。

とまあ、色々とストーリー以外のことを見ながら本を読んでいたし、今でもそうしているんだけど、作家を目指していてもいなくても読んでおいたほうが、小説を読むときに役立つんじゃないかなって思う本があるんだよ。
それがこの3冊シリーズ。

スポンサーリンク


●天気の好い日は小説を書こう/深くておいしい小説の書き方/書く前に読もう超明解文学史

このシリーズは小説を書こうとしている人に向けた早稲田大学での講義を書籍化したものなんだけど、レビューは読まないほうがいい。賛否両論になってるから。
つまりは、表面的な下世話な話に気を取られて、不快だとか浅いとかって言っちゃってる人がいるんだけど、そういう人はたぶん本の読み方がわからない人なんじゃないかなって思うんだよ。
それか、ほんっと、根っから真面目な人か。
そうだね、根っから真面目な人はこのシリーズは読まないほうがいい。三島由紀夫や谷崎潤一郎や丸谷才一さんの文章読本とか読んだほうがいい。

それか本を選ぶ目が浅い人かもしれない。
タイトルみればわかると思うんだけどな。どちらかといえば、軽い感じで書いてる本だってこと。
重々しくしたいんだったら、タイトルはもっと硬くて普通なんだよ。『文章読本』『小説入門』とかみたいに。

あなたもタイトルで軽いか重いかの判断くらいはつくようになったほうがいい。小説は作家や棚のコーナーでだいたいわかるけど、新書や専門書はそうもいかない。
レビューといえば、文庫本や新書に本格的なものを書いていることを期待している人がいるみたいだけど、それも間違ってると思うんだよ。
文庫や新書はあくまでも入門書、基本的なこと、初めてそのことについて触れる人を対象にしていることが多いから。
本格的になにかの知識を求めるのなら、単行本でしか得られないと思ったほうがいい。そして、単行本で知りたいことを得るときも、まずはタイトルだ。そして、目次と「はじめに」と第一章の最初の数ページを読むくらいの調査をしたほうがいい。
本屋に行くのが一番なんだけど、本屋に行けないのなら、Amazonならはじめの数ページから数十ページを読める。

ここまでやって、思ってたものと違うことが書いているとしたら、それは本だけが悪いんじゃなくて、選んだ本人にも責任はある。本を選ぶ目がなかったんだから。本を選ぶ能力に欠けていたんだから。
自分の落ち度を棚に上げて、レビューにあれこれと良くないことを書くのはむしろお門違い、勘違いなんじゃないかな。

ま、いいっか。
内容について話していこう。

このシリーズは、三田誠広さんがだいぶ前に早稲田大学で小説の書き方を講義したものを書籍化したものだ。
でも、読書が好きで、もう少しつっこんだ読みをしたいと思っている人にも向いている。
ぶっちゃけた話、3作目の『書く前に読もう超明解文学史』だけでも読んだほうがいい。理由は後で話すよ。

第一作の『天気の好い日は小説を書こう』はまさにこれから書こうと思っている人向けで、基本的なことが書いてある。
純文学を話す前に、そもそも小説って何かってことや、純文学って何?私小説って個人の体験談と何が違うのかとか。作文にならないための注意とか、自分では選ばないようなものをテーマにしたり素材にしたとき、どう書けばいいのかとか。
小説を書く上での禁止事項とかね。

まず抑えるべき点が書いているから、純文学を読むときも、こういうことに気をつけて書いているんだなって視点で読めるんだよね。
で、この『天気の好い日は小説を書こう』を読むことで、ただただ本に書いている文章を追うだけの読みから、ちょっとだけ突っ込んだ読みができるようになるし「ここはどうしてこうなるんだろう」っていう疑問を持つこともできる。疑問を持つことができれば、考えることもできる。つまり、自分の頭で解釈することができるようになる。
解釈が正しいかどうかは後でいいし、もし違っていても、どこが違っていたかも知ること、気づくことができるんだよ。これって、ただただ読んでいるよりも、何倍もその作品を楽しめることになるって思わない?

そうそう、楽天ブックスではこの本は取り扱っていなかったから、リンクはすべてAmazonへのリンクを貼っておくので、あしからず。

2作目の『深くておいしい小説の書き方』は『天気の好い日は小説を書こう』よりも上級者向けの内容になっている。

小説を読むときって、おもしろさだけを求めて読むのならミステリやSF、エンタメを読めばそれだいい。
けど、ミステリもSFも、エンタメでも、そして名作と言われて何年何十年何百年も残っている文学を読むにも「深さ」まで読めたら、読書のおもしろさ、楽しみ方も深くなるんだよね。

学校の授業って、そこを教えないっていうか、教えていても教え方が良くない。私が教わった小・中学校、高校の先生は申し訳ないけど、そういう先生だった。
このときの主人公の気持ちは?なぜここでこの人はこういう行動をとったのか?
っていう質問があるよね。
この質問は、文章を読み解く練習なんだけど、こういう質問と答えしか教えてくれない。

なぜなら国語の授業に載ってる作品って、全体の一部だけを載せて、その中に書かれていることだけで考えて、答えるっていう訓練しかしないから。
そういう教え方をしろって国が決めてるのかもしれないけど、横道にそれて文学ってのは、小説ってのは、こういう読み方だけじゃないんだ。本当はこう読むものなんだ。だから、作品の全体、本一冊読んでみたほうがいいとかって言ってくれる先生がいたら、もっと早くいろんな文学を読もうと思うかもしれない。
私はそう思ったよ。

で、この『深くておいしい小説の書き方』では「神話的手法」とか「実存」とかっていうのを解説してるんだけど、この言葉を読んだだけで「あ、いや、そういうのいいです」って逃げないで。
それがどういうことなのかをわかりやすく説明しているし、これらを知ることで読書が今よりも楽しくおもしろくなるんだから。

中上健次さんの『枯木灘』とドストエフスキー『罪と罰』を例にして説明してる。『枯木灘』は個人的にもこの本を読んでから読めば、とてもおもしろい本だってわかるから。
とりあえず『罪と罰』は読んどいたほうがいいかな。ふつうに文章を追うだけでもおもしろいんだけどね。主人公ラスコーリニコフとポルフィーリィ刑事とのやりとりなんて、推理小説っていうか、サスペンスっていうか、心理合戦みたいで、文学とかドストエフスキーの小説読んでるんだってこと忘れるくらいおもしろい。

この作品自体、犯人側の視点で殺人を犯すまでの過程と、犯行におよび、その後どうするかってことを書いているから、いつも読んでるミステリの逆の立場で読んでる感覚で、楽しめるんだよ。
嘘だと思うなら、読んでみ。思ってた以上に読めるし、おもしろいから。

でも一度読み終わってから『深くておいしい小説の書き方』に書いていることを踏まえて、もう一度読み返すと、一度目とは違うものが見えてくるし、楽しみ方も変わるし、何倍もおもしろくなる。
ああ、小説ってこう読めばいいのかぁ。ってことがわかる。

それがわかったら、中上健次さんの『枯木灘』とか村上春樹さんの初期三部作とかを読んだり、読み返すと「おぉ、おもしれぇじゃん」って感じれるから。
っていうか、中上健次さんの作品って、ここ数年であまり読まれなくなったのかな。
大江健三郎さんも中上健次さんも村上春樹さんも、他の多くの人が構造主義、神話的手法ってのを使って書いてるんだよ。

ちなみにこの神話的手法。
ハリウッド映画にも使われてる。スター・ウォーズもマトリックスもロード・オブ・ザ・リングも、みんな同じ構造で作られてる。
知ってる人は「ああ、知ってるよ」でいいんだけど。
日本でもジブリ作品はじめ、多くのアニメ、映画、ドラマで使われてるんだよ。
「ヒーローズ・ジャーニー」っていうんだけどね。
それについては『深くておいしい小説の書き方』よりもこっちの本がわかりやすい。
『物語の法則』
楽天ブックス – 物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術 [ クリストファー・ボグラー ]

Amazon – 物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術

この『物語の法則』は、ハリウッド映画って言ってるくらいだから、どちらかいえば文学よりもエンタメ向きの本だ。
ライトノベルとかヤングアダルトとか読んでる、書きたいって思っているのなら、読んでみてもいいと思う。
っていうか、書きたいって思ってるのなら、読むべき。

で『深くておいしい小説の書き方』なんだけど、最後に「新人賞応募のコツと諸注意」っていう章がある。
これは、文学でもエンタメでも最低限守るべきことが書いているから、新人賞やコンテストに応募しようと思っているのなら、知っておくべき守るべき。
「んなのもうわかってるよ」って思っているのなら、健闘を祈ります。

さて、シリーズ最後『書く前に読もう超明解文学史』なんだけど、読むだけの人にも読んでほしい。
文学史って言葉見ただけでも聞いただけでも拒否反応起こしたり、抵抗感じるかもしれないけど、そこは安心して。前2作同様、わかりやすく説明しているし、知れば読書がもっと楽しくおもしろくなる。

教科書で読んだだけ、聞いたことはあるけど読んだことはないっていう作家や作品の、どこがすごいのか、おもしろいのかってのが、とてもわかりやすく書いている。

たとえば梶井基次郎。
『檸檬』って短編、読んだことある?私は教科書でも読んだ記憶があるんだけど、確信を持てないんだよね。
もし学校で読んでいたのだとしたら、授業で読んでも何がいいのかさっぱりわからなかったから記憶にないんだと思う。
この『書く前に読もう超明解文学史』を読んでから『檸檬』っていう文庫を買って一冊読んだとき、なんかもうね、やるせないっていうか切ないっていうか、普段の自分の生活に自分で腹が立ったっていうか。

詳しくは『書く前に読もう超明解文学史』を読んでほしんだけど、梶井基次郎って31歳で肺結核で亡くなったんだよ。
で、彼の作品はすべて「自分は近いうちに死ぬ」っていう自覚のもとで書かれてるんだ。だから『檸檬』では、ここにある本。ここにくるまでにすれ違った人も、今ここにいる人も自分と比べるとたくさん読める。なのに、自分にはもう時間がない。こんなに読みたい本があるのにって思いで、あのようなラストになるんだ。
他の作品もそう。自分は近いうちに死ぬ。自分には時間がない。っていうのが前提にある。

太宰治の一般的なイメージは抱かないほうがいいとかってことも書いてある。

文学の歴史をわかりやすくたどりながら、代表的な作家について触れていて、戦後の作家についても書いている。
まあ、村上春樹さんについて、どちらかいえば否定的な感じなのは、個人的には残念だったけど。
村上龍さんの何がすごいのかとかってことも書いてるし、もちろん三田誠広さんご自身のことも話してる。

あなたの読書、今よりも深くて楽しくておいしくするためにも、読んでみたらどうだろう。

作家を目指しているのなら、もちろん知っておくべき、理解しておくべきことがちゃんと入ってるよ。

ってわけで、今回はここまで。
っつうか、いつもの1.5倍の文章量だったけど、大丈夫だった?飽きなかった?疲れなかった?
ここまで読んでくれたことに、今回は特に、いつも以上に感謝する。心から。

で、次回はどうしようかな。
今回、中上健次さんのこと話そうと思ったけど、今回この3冊の話をしたら、いいかなって気分なんだよね。
次回までに考えときま~す。

スポンサーリンク