私の読書の履歴書12 高校生6

高校生の時って、文学を体系立てて読もうとか、一人の作家がデビューからどういう変化をたどっているかなんて、これっぽっちも考えずに「おもしろそうなもの」を第一に本を選んでた。
だから文学を読むのも、おもしろそうなもの。
教養だとか、読んでおいたほうがいいだろうとは考えてもいなかった。

海外の小説は、翻訳調と言える日本語で書いてるから、どこかとっつきにくかったし。
今は新訳があちこちの出版社から出ているから、以前よりは読みやすくなってるけどね。
ただ新訳よりも旧約のほうがよかったってこともあったりするから、難しいね。
そんなときは新旧どっちも読むのも選択肢としてあり。

というわけで、今日はまずこちらから。

スポンサーリンク


Contents

●銀河鉄道の夜

もっと長い話だと思ってたんだけど、文庫本で100ページもない短編なんだよね。たしか新潮文庫で60~80ページくらいだったと思う。
宮沢賢治の世界観は、合う合わないがある。
造語もたくさん出てくるんだけど、私は正直なところ、宮沢賢治の世界は慣れなかった。
と言っても『銀河鉄道の夜』は好きな作品だ。

サラッと読めば、哀しみを伴う前向きな話なんだけど、いかんせん謎が多い。
登場人物が突然いなくなったり、何の説明もなく珍しいものを持っていたりする。
他にもあるんだけど、ネタバレになるからここでは話さない。

宮沢賢治は独自の宗教観を持っていた人で、ほとんどの作品はその宗教観がベースになっている。
そしてその宗教観は、ときにキリスト教的であり、ときに仏教的で、ときに儒教的でもあるんだ。
さらに今で言うスピリチュアルにも通じるものもある。

新潮文庫版の『銀河鉄道の夜』には14編の物語が収録されている。
10代のうちに読んでほしい本だ。
なぜかって?この本を10代で一度読んで、20代後半以降に読み返すと、違ったものが見えるからだ。

 

 

Amazonはこちら – 新編 銀河鉄道の夜 (新潮文庫)

●宮沢賢治詩集

詩集は、宮沢賢治、中原中也、ランボー、ヴェルレーヌ、谷川俊太郎、ボードレール、萩原朔太郎、北原白秋、島崎藤村、あとはえ~っと、まあ、あれだ、けっこう読んだ。
上記に挙げた人の詩集は高校生の時に「いちおうは」読んだ。

そう、つまりほとんど理解できなかった。
読んだというよりは字を追ったと言ったほうがいいかもしれない。

20代後半から30代前半にもう一度読み返したときは、さすがにちょっとだけは理解できるようになってたけど。

宮沢賢治の詩で好きなのが「永訣の朝」「無声慟哭」だ。
「春と修羅」の無声慟哭の章にある。
理由は、わかりやすいから。

ってだけではなく、この2つの詩を読んだ時、宮沢賢治の感情、気持ちが入ってきたんだよ。
誌を読んでそんな気持ちになったのは初めてだった。
「無声慟哭」ってこの言葉だけでも、凄まじくない?

どちらも宮沢賢治が妹を亡くした時のことを綴った詩だ。
悲しさ・哀しみと祈りが混じっていて、読んでとても切なく、やるせない、それでも残った者として、前に進むんだって気持ちがわいてきた。

萩原朔太郎とランボーも何度も読んだ詩人だけど、ここでは話さない。
情けないが、正直、詩を語る言葉を私は持っていないんだよ。

 

 

Amazonはこちら – 新編宮沢賢治詩集 (新潮文庫)

●変身

カフカといえば『変身』を最初に読む人が多いんじゃないかな。
本が薄いから。
で、内容もなんかおもしろそうだから。

そんな軽い気持ちで読むと、なかなか考えさせられる本だったりする。

冒頭で小説の世界にぶち込まれるんだよね。

「ある朝、グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変っているのを発見した。」
   『変身 / カフカ著 ; 高橋義孝訳. – (新潮文庫)』より引用

目が覚めたら、虫になってたって。
ちなみに、気がかりな夢が何だったのかは最後まで読んでもわからない。

このあとの展開もむごい。
ラストがどうなるかは読んでからのお楽しみ。

カフカといえば他にも多くの短編を残しているし『審判』『城』『アメリカ』など未完の長編が遺稿として発見された後に今でも発売されている。
ブラックなユーモアに孤独と不安があって、息苦しい悪夢のような話が多い。

しかし、多くの分野で解釈されたり、多くの作家、ミュージシャン、映画監督に影響を与え続けているあたり、その作品には多面的な、そして現代に至るまで普遍的なものがあるんだということは知っておいたほうがいい。
それがなんなのかってのは、まずは作品をある程度読んでら、カフカについて書いた本を読もう。
ここで話せるほど簡単でも単純でもないから。

 

 

Amazonはこちら – 変身 (新潮文庫)

●異邦人

薄くてすぐ読めそうな文学といえば、この『異邦人』もそうだ。
初めて海外文学を読もうと思ったときに『変身』にするか『異邦人』にするか迷った結果、両方買ったんだよね。

ムルソーのもとに、養老院にいる母の死を知らせる電報が届いた。
養老院に行っても、葬儀のときも、ムルソーは涙は流さず、気持ちも乱れていたようには見えなかった。
母の葬儀の翌日以降も、いつもと変わらない日常を送っていた。
ある日、友人とのトラブルでアラブ人を射殺してしまう。
裁判で動機を尋ねられたムルソーは、
「太陽が眩しかったから」
と答える。

社会の不条理を描いた作品って言われるけど、高校生の私にはそんなことよりも、ムルソーみたいなやつとは友達にはなれないってことくらいしか浮かばなかった。
ま、これもまた、20代中盤で読み返したときに反省することになるんだけどね。

ムルソー視点で話が進むから見えないんだけど、読み返すときは、ムルソーの視点と他の登場人物の視点、物語から離れた客観的な視点と、いくつかの視点で(できれば同時に複数の視点を持ったまま)読んでみるのもいいよ。

 

 

Amazonはこちら – 異邦人 (新潮文庫)

というわけで、今回はここまで。
次回は『ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』を話す。

スポンサーリンク